2025年越境EC動向:新興市場の成長と企業が取るべき戦略


越境ECが注目され始めてから10年以上が過ぎました。もともと一部の企業が行っている事業モデルであったニッチな越境ECが、大規模金融緩和による円安をきっかけに注目を浴び始めました。ゲームやアニメ、漫画のコンテンツ人気も相まって、良質な日本商品をリーズナブルな価格で手に入れたいという需要が高まりました。そして、コロナ禍を経た今、さらなるインバウンド需要の増加が見込まれる中で、越境ECの未来について考察します。

越境ECの現状

越境ECは企業が自国以外の市場で商品を提供する形態の電子商取引です。以前は大企業や特定のニッチ市場に限られたものでしたが、昨今では参入障壁の低減と物流環境の整備、決済システムの安全性向上などにより、急速に一般的なビジネスモデルとなっています。

以前であれば現地で入手できない希少価値の高い商品を越境ECで販売するケースが主流でしたが、現在は現地でも入手可能だがより安価に購入するためという、内外価格差を理由とした顧客からも支持されています。以前に比べて越境ECを利用する消費者の需要が多様化しています。

参入企業目線では越境ECの環境が整備されたことにより、本格的な海外進出の前段階として取り組む企業が増えています。既に海外進出している企業であっても、取扱い商品全てを海外販売できるケースは少なく、越境ECでのテストマーケティングを実施し、どのような商品がどの国にどの程度需要があるのか調査したうえで、該当商品を現地で販売するといった手順を踏んでいます。そうすることで、輸入商品の現地ライセンス取得の手間を削減することができ、より効率的に現地販売を行うことができます。

まだ海外進出していない企業がゼロベースでどの国にどういった需要があるのか調査するために、利用するケースも多く、実際に現地販売を行う市場選定の判断材料として利用されています。越境ECの面白い点は、企業が売りたい商品、売れると思っていた商品以外の商品が購入されることで、新たな発見がある点です。新しい市場に新しい需要を思いもよらない形で発見できることも越境ECの魅力です。

市場規模の拡大

こうした背景のもと、市場規模も急速に拡大しています。2020年時点で、世界の越境EC市場は3.4兆ドルを超え、2025年には5.0兆ドルに達すると予測されています。この成長の背景には、アジア市場を中心とする新興国の消費市場の拡大や、成熟市場におけるオンラインショッピングの普及があります。また、コロナ禍の影響で消費者のオンラインショッピングの需要が急増したことも、市場の成長に寄与しています。日本からの越境ECは北米、中国、ヨーロッパ、東南アジア、台湾と全世界に展開されており、昨今の円安が市場拡大スピードを後押ししています。

特に新興市場の成長が目覚ましく、東南アジアではタイ、ベトナム、フィリピンなどの国が注目されています。これからは南米、インド、中東が注目されており、日本からの流通額のさらなる拡大が期待されています。

一方、注目を集めていた中国越境ECは当時の状況から大きく変化しています。具体的な市場規模について数字は集計されていませんが、数年前から中国越境EC事業から撤退する企業が多くなり、東南アジアへのシフト、日本国内へのシフトなど別事業へのピポットを行っています。背景には中国政府による法律の変更が大きく関わっており、越境ECモデルでの中国国内への輸入が以前に比べて困難かつメリットが少なくなったことがあげられます。中国市場を攻略する為には越境ECモデルではない事業モデルを検討しなければなりません。

プラットフォームの発展

越境ECは、主に大手のオンラインプラットフォームを介して行われています。Amazon、eBay、Shopee、Lazadaなどのグローバルなeコマースプラットフォームは、越境ECを容易にし、小規模な事業者でも世界中の顧客にアクセスできるようにしています。このようなモール型のプラットフォーム以外にSNSを通じた商品の認知から購入までが一体化するソーシャルコマースの台頭も見逃せません。InstagramやTiktokなどを活用した購買活動が拡大しており、これを活かす形で越境ECの戦略を構築することが重要です。

各プラットフォームは越境ECへの参入障壁を下げるために日々進化しています。日本語でのフォローアップ体制の構築、物流環境の整備、AIを使ったマーケティングシステムの開発など、企業が参入しやすく早期に成果を得られる環境を整備しています。国内ECを経験した企業であれば、抵抗なく越境ECへ参入できるレベルまでプラットフォーム体制が充実しています。

このような越境ECプラットフォームは外資企業が主でした。しかし、今後は国内企業プラットフォーマーも台頭してくると考えています。既に代講や転送という形でサービスを展開している企業もありますが、国内プラットフォーマーの本格参入も近い将来実現されると予想しています。それにより越境ECプラットフォーム間での競争激化が予想されるとともに、販売企業側は質の高いサービスを適正な価格で利用できるようになるでしょう。

今後の展望

今後、越境ECはますます進化していくと予想されます。特に新興市場の成長、サプライチェーンの進化、物流の効率化、プラットフォームの進化が進展するでしょう。このように拡大市場にアプローチするための環境がさらに整備されていき、海外に向けた販売機会は急激に増加します。

こうした状況を背景に越境ECに取り組んでいれば商品が売れていた時代は過去となり、適切な戦略を実行できる企業が選ばれる時代が訪れます。国内、越境の垣根は低くなりECという俯瞰した視点での施策が重要になってくる一方、ローカライゼーションの強化が重要になります。単に言語を翻訳するだけではなく、消費者の文化や購買週間に応じた商品ラインアップやマーケティング戦略が求められます。例えば、日本の商品が海外市場で成功するためには、パッケージングやデザインを現地に適応させる必要があります。このようなローカライゼーションを徹底することで、消費者の信頼を得ることができ、越境ECの成功に繋がります。例えば、日本では抹茶の味が人気ですが、海外では抹茶ラテのような甘みのある製品が好まれることが多く、このような文化的な違いを踏まえた商品展開が鍵となります。

結論

越境ECは、今後ますますグローバルな市場での競争を激化させる一方で、多くのビジネスチャンスを生み出す分野であることは間違いありません。企業は、これらの新しい技術やトレンドをうまく取り入れ、消費者のニーズに答える形で戦略を構築していく必要があります。また、成功には物流の効率化、ローカライゼーションの強化など、多方面での対応が求められることを認識し、それに対する準備を進めることが重要です。これからの数年で、ますますダイナミックで多様な越境ECの時代が到来すると予測されます。そのような事業環境の中で、技術革新と消費者ニーズの変化に迅速に対応し、新たな市場で成功を収めましょう。